マチオモイの灯


super004いつもは道頓堀にある我が家でがちゃがちゃと原稿を書いているのだけど、今日は違う。瀬戸内海に浮かぶ島。ふるさと因島にいる。聞こえてくるのは蝉の声、軽トラのエンジン、波の音。ミナミ育ちの二匹の柴犬たちも早朝散歩して、海で泳がせてはやくも昼寝。砂浜を走るユメでも見ているのだろうか、前足をひょいひょいと動かしては、また眠る。この島に帰る場所を残しておいてくれる両親と海には心から感謝している。だからこそ余計にも、今年、ふるさとの海の町に帰れなくなった方を思うと胸が痛い。さて、311からもやもやとした気持ちがしばらく続いて、自分の中で出したひとつの答えがある。前回もここで書いたけど「この町のおばあさんにやさしくする」という超個人的なアクションだ。そのコミュニケーションツールとして道頓堀では掃除道具を選び、一方、なかなか帰省できない因島については「マチオモイ帖」というノートをつくって島の人たちに配ることにした。名前は「しげい帖」、重井町(広島県尾道市因島)の町という字を「帖」に変えて生まれた島への思いを綴った。おじいちゃんやおばあちゃんの多い島なのでいつもよりも文字を大きくして、子どもや島外の人も楽しめるようにクイズや絵日記が描けるスペースも設けた。1000冊、自腹で印刷。同級生や近所のおばちゃん、恩師、たくさんの人に「しげい帖」を手渡した。「なつかしいねえ、嬉しいねえ」・・・ノートを開くと不思議なことに思い出のなかにある時間が動き始めた。会話が生まれた、島と私の新しい関係が生まれた。道頓堀に戻った私はクリエイター仲間に土産話をした。すると、「それ、みんなでやらへん?」ってことになり、「1町=1クリエイターがつくる日本全国マチオモイ帖」を立ち上げることにした。「町起こし」ではなく「町オモイ」。社会(マチやウチ)が今日までの私にしてくれたことをひとつひとつ思い返すというコンセプトで仲間を募り、茨城、福井、鳥取、和歌山、大阪、兵庫、北九州など様々な町の「マチオモイ帖」が誕生した。前代未聞の愛しい、愛しい展覧会となった。展覧会後は、それぞれがお盆休みなどを利用して家族にその思いを届けた。「両親が、涙浮かべて、何度も読み返してた。近所の人にも自慢してた」。6月のメビックでの展示からスタートしたこのプロジェクトは来年1月20日より、東京ミッドタウンのデザインハブで北海道から沖縄まで日本全土のクリエーターといっしょにつくる「my home town~わたしの町オモイ帖」に広がる予定。小さなマチオモイがひとりひとりの心に灯りをつけていく。そうすれば、新しい日本地図が必ずできる。

 

掲載記事はこちら