千枝さんのこと。

千枝さんは
わたしのいちばん年上のともだち。

「1万人の第九」に20年間も連続して出ていらした、
アクティブな70代の女性で、
偶然にも因島出身。

ブラジルに行ってきましたの。
リオのカーニバル、素敵でしたわ。

南米のチリに行ってきましたの。
民族の暮らしには、忘れてはいけないものがありますわね。

いろんな国から
絵葉書が届きました。個展のときには花も届けていただきました。
因島の昔話もよくしました。
外国に年になんどもいく千枝さんですが、
因島に帰ることはほとんどなかったようで、私がいつか、でこぽんを送ってさしあげると、

ああ、私も昔はこうやってね、
母が野菜をいっぱい入れてね、大きな荷物をいつも送ってきてくれたの。
でも、もう母もいないし、因島から荷物が届くこともないわ。

そんな話をした。

机の上に、千枝さんの苗字が書かれた見慣れない文字のハガキが
置いてあって、ちょっと嫌な予感がしたのですが、
案の定、それは千枝さんの訃報。娘さんがわざわざ、わたしの住所を調べて、
送ってきてくださったのでした。

家族だけですませたお葬式で、
香典も花もお断りするようにと母からの遺言です。もしよろしければ、お手すきのときに、
すこしだけでも、思い出してやってもらえたら母もよろこびます。

と。

思い出すこと。
誰かが、順番に、誰かを思い出すこと。

は、とても大切なことに思える。この世界は、順番順番にやっぱり誰かが、誰かを
支えながら、思い出しながら、回っているのだから。


あの桟橋の、おもいでの番人がひきあげたのは、
世界を飛び回ったアクティブな女のおもいででした。

2010年4月22日 07:48  |  
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