マメラテス 「親愛なるミツトン。きょうはとても驚いた話をしよう。それでなんともいい気分なのだが、
話をはじめてよいものかどうか、ミツトン、いってくれたまえよ」
ミツトン 「おいおい、なんだね改まって。ぼくたちの仲ではないか。
みずくさいことをいわずに、いつでも話したまえよ。とりわけこのように、いい天気の日に
都合の悪いことなどなにもないよ」
マメラテス 「ありがとう。そういってもらえると有難いよ。とりわけ、素晴らしい話なのでね」
ミツトン 「マメラテス、わかった。聞こうではないか。きょうはきみの素晴らしい話をたっぷりと。
さあ、いつでも話したまえ」
マメラテス 「パパの本がでる」
ミツトン 「・・・なんて?」
マメラテス 「すまない。とりみだしてしまった。いかにも、パパの本がもうじき出版されるということだよ」
ミツトン 「ちょっとまて。それは、まったくもって想像を超えたね。
パパは、執筆家ではなかろう。どちらかというとママが執筆家だと認識していたのだが、
違おうか。かさねていえば、パパは寝るのが仕事ではなかったか?」
マメラテス 「違いない。ただ、ものを書くというのは、技術の前に思考というものが必要であろうことは
ミツトン、きみもわかるであろう。パパは考えることができるひとであるということだよ。
寝ている間もパパは考えをめぐらしていたということであろう」
ミツトン 「素晴らしい父をもったね、われわれは。また、それは
われわれが日々、こうして生きる意味を考え、
鍛錬してきたことと関係あろうか、なかろうか」
マメラテス 「おおいに関係あるね。そして、パパは、ソクラテスに挑んだのだよ」
ミツトン 「おいおい、ソクラテスとは本当かね。きみの一番尊敬する哲学者ではないか」
マメラテス 「クリトンという話ももあるそうだ。ソクラテスの親友の名前だね。いかにもわれわれは
こうやって父から名をあたえられたのであろう」
ミツトン 「なんとも泣かせる話であるね」