きょうは因島にいる父の誕生日だ。
なにがほしいというわけでもない父を少しぐらいは
わくわくさせるものがないかと
考えて母に電話してみると、
「お父ちゃんがいま一番ほしいものは、雨じゃねえ」
猛暑、日照りつづきで
メロンも、みかん山のでこぽんたちも、喉をからからにして、
雨を待っているという。雨が降らなければ、水を汲んでやらなければいけない。
何度も何度も水を運んでやらなければいけない。
この水の量が、収穫時の美味しさを大きく左右するのだ。手間は惜しまない。
でも、でも、雨さえ降ったら、お父ちゃんはちょっと休めるからね。
雨は天に祈るしかないので、
畑で父がいつもポケットにいれて聞いているラジオは
どうだろうと思い立って母にたずねたら、
「ああ、それはいい考え。ちょうど古くなって買い換えたかったんよ」
ってことで。
広島カープを存分に聞ける
ラジオを贈った。
新商品がいくつもならぶビッグカメラの隅っこのほうに
ひっそりと、ラジオ売り場はあって、
種類も迷うほどはなかった。そして、とても安かった。途中、
中国人観光客にラジオコーナーを占拠され、
微妙な気持ちになるのだが。
それでもラジオを贈る娘がいて、
ラジオによろこぶ父が居る、日本はまだそんな国です。
そして、雨は運べなくても、
人がちょっと笑顔になれるような、人の心に潤いを与えるような、
そんなアイデアやことばを紡ぐのが
私のいまの仕事です。