短大時代の友人とひさしぶりに逢った。
今年のはじめにばあちゃんが亡くなったよ、と告げると
「ああ、あの名物ばあちゃんね」
といいながら、私はもうまったく覚えていない
エピソードを話してくれた。
わたしたちがまだ20歳ぐらいの頃だと思う。
ある夏休みに、神戸から遊びにきたのが、この友人A子だ。
わたしはA子をつれて、他にもなんにんか高校時代の男の子をつれて
夜の海に遊びにいった。花火などをしていたんだと思う。
「ほんで、あんたが海岸沿いで、
黒い犬を拾うたんやんか~~!!」
A子はわたしがもう覚えていない昔の犬「ゴエモン」との
出会いの現場にいた一人だった。
ぼんやりと、まっくらな夜の海、岸壁のあたりをちょろちょろしていた
黒いムク犬の姿を思い出す。あまりにも可愛く、
家につれてかえろうとしたわたしにA子は、
「あんた、大阪住んでいるのに、どうやって飼うんよ!」
と、つっこんだらしい。私は、
「ゆうじ(弟)がなんとかするじゃろ」
と。まあ、無責任。そうやって、黒い犬を抱いて家に戻った私は、
家族につめたい視線を送られることになる・・・
弟のゆうじは、
「どうするん、飼われんよ、犬なんか」
A子は、ほらみてごらん、と心のなかでつぶやいていたそうだ。
味方をうしなった私は、翌朝、どこかにまた捨ててこないといけないのかなと
思いながら、冷蔵庫からミルクを出してゴエモンのもとにいく。
でもなぜかミルクを飲まないゴエモン。すると、弟のゆうじが
「もう飲まんよ・・・さっきボクがミルクやったもん」
続いて、20年前の元気なおばあちゃんが台所から
「みかちゃん、犬を拾うてきたんじゃって? はよ捨ててきねー!!」
といいながら、鍋いっぱいの「エサ」をこさえてやってきた、と
A子は話した。どんな家やねん、やさしいんか、つめたいんかどっちやねん!と小さく突っ込みながら、
なんとかこの家で、ゴエモンは飼われることになるんやろなあ、と
A子は思っていたらしい。
ゴエモンがいくつで死んだのか、私の記憶にはない。
ただ、私は因島に帰っていて、お父ちゃんとおかあちゃんが、ごえもんの調子が悪いからと、
「ポポンS」を飲ませてやっているのだ、といってて、
その後すぐに亡くなって、私は、静かにことのなりゆきをみていたのだけど、その夜、
弟ゆうじと、犬小屋にいって、それから海にいって、ふたりとも黙ってて、ふと、となりをみると
ゆうじの小さな目から、ポロっと涙がこぼれたのを思い出す。
黒い海をみながら、涙はほんとうに光っていた気がした。
生きていたころのばあちゃんと
生まれたばかりのゴエモンのはなしが
玉手箱をあけたみたいによみがえった日曜日。
記憶の番人がいるのですね、この世には。
わたしがとっくにわすれたことをあのひとが覚えていて、
その逆もしかりで。
そして、絶妙なタイミングで
思い出させてくれるのですね。教えてくれるのですね、
なにかを今の私に。
ばあちゃんと
ゴエモンと、
また逢いたいなとおもった
A子と。